医療・介護から看取りを支える人たちのインタビュー ”ひと”

インタビュー“ひと”
看取りを支える人たち - Human Inteview -

医療・看護体制の充実を図りつつ供養や慰霊にも積極的に取り組む

Profile

東京海上日動ベターライフサービス株式会社 ヒルデモアたまプラーザ・ビレッジ1
岩佐茂施設長

東京海上日動ベターライフサービス株式会社 ヒルデモアたまプラーザ・ビレッジ1 支配人 岩佐茂

「『本物の』終の住処」での看取り率100%を目指す

一部の介護施設において、供養や葬送の領域に積極的に関わる動きが始まっている。

 

かつて介護や医療の世界における常識であった「死はひっそりと目立たない形で葬儀社に渡す事柄である」という考え方は急速に時代遅れのものに変わりつつある。

 

特に、高級有料老人ホームにおいては利用者とその家族の「亡くなるその日まで暮らせる場としてあてにできるのか?」という期待に応える形で、正面から取り組むテーマとしているところすら存在する。

 

今回は、有料老人ホームなどの介護施設を中心に高齢者の住まいに関する相談対応を広く手掛ける、株式会社ケアプロデュース※の小野寺さんにご紹介いただき、そういった流れの中で優良先行事例と評判の高い「ヒルデモアたまプラーザ」を取材した。
【※株式会社ケアプロデュース 東京,神奈川,千葉,埼玉を中心に業界経験豊富な専門家が全国のホームからご要望に応じて高齢者ホームを紹介する 有料老人ホーム情報館を運営】

 

「ヒルデモア」は、東京海上日動ベターライフサービスが運営する介護付き有料老人ホームだ。「ヒルデモア」「ヒュッテ」という2つのブランド名で、東京、神奈川、京都、長野に11のホームがあり、総居室数は500室にのぼる。

 

ヒルデモアたまプラーザ・ビレッジ1」は2000年の開設以来、「施設ではなく、『家』をご提供する」という想いを形にしたサービスを追及し、スタッフが一丸となって看取りに取り組んでいる。居室での看取り率の高さと、ホーム内での葬儀実施率について、業界で高い実績を持つ「ヒルデモアたまプラーザ・ビレッジ1」の支配人 岩佐茂氏とご入居相談部マネージャー 竹村彩子氏に、基本コンセプトやターミナルケアに対する考え、ホーム内で葬儀を行うようになったいきさつ、および今後の取り組みに関する展望などを聞いた。

 

 

 

ヒルデモアたまプラーザビレッジの特徴

「『ヒルデモア』は『施設』ではなく、ご入居者の暮らしの質、人生の質をお守りする『家』です」
そう語るのは支配人の岩佐茂氏だ。

「老いや障がいがあっても、ご本人やそのご家族にとっての家のように、その方らしく、安心して過ごしていただきたい。これは、創設時から私たちが大切にしてきた想いです。私たちは日本の少し前の時代のご家族の暮らしの原風景を取り入れていきたいと考えました。『自宅での葬儀が当たり前だった時代があったのだから、ヒルデモアでも自然に葬儀ができるような場所があったらいいね』そう言って、ホームの中にどうやって取り入れていくかを考えていました。その答えのひとつが「静堂」です。見ていただけるとわかると思いますが、他の行事で使えるように作っていないのです。田舎の家、畳の部屋、そこから望む庭…そんな風景を取り入れ、『家』の者が最期を迎えたら布団を敷いて寝かす。そんなシーンをイメージして作られました」

現在、ヒルデモアと深い協力関係にある公益社 東京本社 セレモニーサービス部 高円寺営業所長の田中大敬氏は、「ヒルデモアさんのコンセプトは『終の住処=自宅』だから『自宅で葬儀を行うのは当たり前』とされている。シンプルですが根源的なコンセプトを開設当初からぶれることなく具現化なさっている」と語る。

 

「静堂」の他にも、「ゲストルーム」は遊びに来てくれた子どもや孫たちに泊まってもらうためのスペースとして、時に親族が集まって一緒に食事をしながら談笑するスペースとして…。といったように、「ホームに入っても、これまで親族で行ってきた行事をできるだけそのまま継続していただきたい」そんな想いを込めてそれぞれの場所を定義づけている。

 

看取りを支える人員体制として「ヒルデモアたまプラーザ・ビレッジ1」のスタッフ体制は、1.5:1以上(介護保険法が定める人員基準の2倍以上)で看護スタッフも24時間常駐している。さらに、「重要なのは、どれだけご入居者とそのご家族の気持ちに寄り添ったケアが実現できるかである」と考え、入居者1人に対し、1人のコンタクトパーソンを選任している。コンタクトパーソンは自宅にいた頃のように自分らしく暮らしてもらうため、入居者の歩んできた人生から趣味、食べ物の好みまで、暮らしに関わるあらゆることを把握し、入居者の心身の状態や変化について、家族に報告したり、医師、看護スタッフ、リハビリスタッフ、ケアマネージャーなどと、入居者の希望やケアの方針について話し合う、「チームケアのコーディネーター」だ。コンタクトパーソンが中心となり、入居者にとって何がベストなのかを、チーム全体で考えるという。

 

「単なる担当者という役割を超えて、調整役として、本人の代弁者として、ご入居者との濃密な関係性を築くことが、コンタクトパーソンの特徴です」岩佐茂氏は言う。逝去した入居者には、心からの感謝の気持ちを手紙にしたため、遺族に届ける。ホーム内での葬儀を行うことが少なくない同社では、「玄関でお出迎えし、玄関からお見送りするまで」がコンタクトパーソンの仕事だ。

 

最期を迎える場所の選択

在宅での看取りでも同様だが、最期を病院に任せることで「やるべきことをやった」という感覚になる家族や親族がまだまだ多いのではないだろうか。「自宅で死にたい」という本人の希望を叶えるために、同居の家族は自宅で看取ろうと懸命に介護していても、事情を詳しく知らない親戚など外部からのプレッシャーがあったり、同居の家族自身も「やっぱり病院に連れて行った方がいいのでは」と考えを変える場合もある。看取りに取り組むにあたり、利用者や家族のそういった揺れ動く感覚に対して、どう対応されてきたのだろうか。

 

「確かに、病院で迎える最期は、例えば苦痛をなくすとかそういう意味では、きめ細かなことができるのかもしれません。しかし病院は、治療するためにあるところなので、そのためには検査が必要だし、点滴も必要です。モニターで監視するために機械に繋ぐことも求められます。『殺伐とした病室で計器に囲まれ、チューブが繋がれているような終わり方じゃなくて、理想としては草木が枯れていくように亡くなっていくのが、本来の人間の終わり方なのでは』という考え方を持たれる方も多くなっています。」岩佐茂氏は話す。

最期を病院で迎えるかどうかは、延命治療をどこまでやるかという線引きに深く関わっている。そのラインは、コンタクトパーソンが家族と話をして決めていくのだろうか、それとも、予め本人の意思をヒアリングしておいて決めるのだろうか。

 

「ご本人の意思というよりは、例えば、『お母さんは、お父さんががん癌を患って看取った時、最後は胃瘻になって、病院で不自由な生活をさせてしまったことを悔やんでいました。だからお母さんは、自分自身は病院での最期を望んでいないと思います』などとご家族から言われるケースが多いです」岩佐茂氏は言う。

 

「入居時にコミュニケーションの取れる方であれば、『まだ先のお話ですが、ご入居を機会に少し考えておいてください」とお話しています」ご入居相談部マネージャー 竹村彩子氏はそのように説明する。

 

「要介護状態でコミュニケーションが取れない場合は、ご家族と『多分、本人はこう思っていると思います』といった感じで、その都度面談して確認しています。お身体の変調とともに、お気持ちが変わられるかもしれないので、必要に応じて往診医の同席の上で話し合ったり、しながら、一緒に考え方を確認していっています」

 

入居時やまだ元気な状態でコミュニケーションが十分に取れる場合には本人とのやりとりを重ねるが、やがて介護度が上がり意思疎通が難しくなってくると、家族とのやりとりを増やしていくのが一般的な流れのようだ。

 

入居時確認書と現実

入居の際に入居者や家族に説明する、介護度が重度化した場合の医療についての指針がある。そこには、緊急の際にどう対応するかが記されている。

 

意思確認については、指針を説明した上で「まずはご本人の意思を確認します。それができない場合は、ご本人の意思を尊重して、ご家族と私たちで相談して方向性を決めていきます」竹村彩子氏は説明する。

 

実際のところ、入居時に元気な状態であれば、突然「どう死にたいですか?」と尋ねられても、明確な答え持っている人はそれほど多くはない。「病気にでもならない限り、想像もしないし、イメージできない」それは、本人のみならず、家族も同じだと岩佐茂氏は言う。「元気なうちに『ご本人に聞いておいてください。それを元にお話しましょう』と言うのですが、『元気になったから病院を退院してここに来られたのに、まだそんな話できません』と仰るご家族の方もいます。でもそれが正直な気持ちだと思います」
考えなければならないこととして投げかけられる言葉だが、自分のこととしても身内のこととしても、積極的に死と向き合おうとする人は少ないのが現実だ。

 

「いざ本当に看取りの時が近くなったら、医師を交えて面談を繰り返し行っていくのですが、そのときに迷う人がすごく多いんです。実は私たち自身も迷うんです。例えば、『お父さんは、チューブにつながれて死ぬのが嫌だって言っていた。病院でなんて死にたくないって言っていた。だから延命治療は一切行わないでください』と、入居時に息子さんが言っていたとします。しかし、現にお父さんが苦しい状態になったら、お父さん自身が『苦しいから助けてくれ』と言うかもしれません。『病院に連れて行ってくれ』と言うかもしれません。だからと言って私たちは、『入居時にあなたはこう言ったじゃないですか?』なんて言いません。そこに直面した私たちと息子さんとで顔を突き合わせて『お父さんは本当はどんな死を望んでいたのか』を話し合って、どうすべきかを決めていくべきなんです」数々の現場を経験した人だからこそ、書面やマニュアルに縛られない、臨機応変に対応できる柔軟さが欠かせないことを知っている。

 

「『延命はダメだ』と仰る方もいますが、食事が取れなくなり、末梢からの点滴くらいしか入らなくなったときに、『点滴もしない状態を、あなたは見ていられますか?』とお訊ねします。ご本人が心臓の強い方ですと、点滴での水分すら入れていない状態でもどんどんやつれていきながら生き続けていかれることがあります。『何もしないで、そのお姿をただ見ていられるのでしょうか?』と、つらい現実をお伝えせざるを得ないようなケースもあります。逆に、『入居時は酸素もダメだって言ってしまったけど、こんなに喘いでいて可哀想なので、何かしてあげられることないですか?』というご家族もいらっしゃいます」

 

岩佐茂氏は、「ヒルデモアたまプラーザ・ビレッジ1」では、水分補給を目的とした末梢からの点滴や、息苦しさを紛らわせる程度の酸素吸入はできると説明する。

 

「元気な時は大丈夫でも、最期の時には、お考えが変わることもあるかもしれません。だけど私たちはそれを否定はしません。私たちは少しでも苦しさを和らげるために、お手伝いできることはさせていただいています。最後の最後までご本人とご家族が満足のいく最期を追求・模索できるようにすることが、私たちの役目でもあるのです」

 

同社では何度も面談を重ねる中で、実際のケースをリアルに交えながら、必要と思われることは余すことなく家族に説明し、本人の元気な頃の要望と併せて、最適なケアプランを練り直すという。

 

看取りにかけるプライド

2015年4月の介護報酬改定で、有料老人ホームにおける看取り介護加算が拡充された。人員配置などの要件だけを整えて、ケアの質伴わないホームが加算を取得しているケースも散見されており、同社はこれまでそういったホームとは一線を画したいと「積極的に加算を取る必要はない」と考えていた。しかし、この改正により国がホームでの看取りを奨励するようになるために「看取り加算を取得している=看取りがしっかりできている」というイメージが世間的に醸成されやすくなった。そこで、利用を検討する方々に安心してもらおうと取得する方針に切り替えた。もともと全ホームが加算要件を満たしていた同社は大きな体制作りを行う必要もなかったために、そのまま看取り加算を取得することとなった。

 

同社では、「医療体制、身体拘束に関する基本方針、看取り期を含む重度化した場合における対応に係る指針」という看取り介護に関する指針を定めており、これに基づいて「看取り期の対応」「医療方針の決定」などを入居時に説明する。
「この書面には看取りの定義を説明する部分と、私たちの看取り介護について説明する部分があり、重度化して看取り期に入った場合は、この指針に立ち返り、ケアプランを看取り期のものに組み直します。」看取り期に入る際の流れについて、竹村彩子氏は話す。

 

「私たちのようなホームでは、夜間に亡くなる方が多いので、24時間きちんとドクターと連絡がついて、死亡確認や相談ができる体制が必要です。」岩佐茂氏は説明する。

 

同社が提携する協力医療機関は、当直医を置いて24時間の医療体制を組んでいる。
協力医療機関のグループには入院施設を持つクリニックがあるため、一時的に入院することも可能だ。

 

「例えば、病状が進んで行く過程で、肺炎が悪化してしまったとします。『苦しそうなので、少し病院で預かってもらって、肺炎を治療してもらえば、緩やかな最期を迎えられるのではないか』という際に、一時的に入院させてもらうこともできます」グループ内のクリニックでは、入居者のカルテを共有しており、延命治療に関する対応にしても、ホームの中にいるときと同じ医療方針が引き継がれるという。

 

「容態が急変したときには病院へ連れていくことが前提となっている体制では、もう看取りができるとは言えません。緊急の際に医師に連絡がつかないと困ります」岩佐茂氏は言う。看取りを行った際、医師に死亡診断書を書いてもらうためにも、24時間対応できる体制が必要不可欠なのだ。人の死は時を選べない。看取りにプライドを持ち、看取りと真摯に向き合う、同社の姿が浮き彫りになる。

 

同社の全11ホームでは、逝去する入居者の約7割が自身の居室で最期を迎えるという。業界平均は2〜3割に留まり、大半が病院での最期を迎えている現在、同社の看取り率の高さは群を抜いている。

 

ホーム内で葬儀を行うメリット

10数年前、看取り期に入った母親のため、その娘である女性が1ヶ月間、毎日ホームに通っていた。あるとき、母親の容態が急変したため、母親の部屋に泊まることになる。翌朝、容態が落ち着いたので、ホームから仕事に出かけた。すると、事務所のスタッフが「いってらっしゃい!」と送り出してくれ、夜仕事を終えて戻って来たら、「おかえりなさい!」と迎えてくれた。彼女はその体験に深く感動し、「まるでこの家の一員になったような気分になりました。ましてや母は、何年もの間ここで暮らして、24時間見守られていたんです。母はここのみなさん一人一人に、お礼を言って旅立っていきたいはずです」そう言って、ホームの中で葬儀を行いたい旨の希望を申し出られたのだという。

それが「静堂」での初めての葬儀となった。

 

しかしスタッフの中には、「まだお元気なご入居者の方にも、自分の死というものを意識させてしまって、恐怖感やショックを与えるのでは?」と懸念する者もいた。ところがその不安はみごとに払拭される。実際にホーム内での葬儀を行うと、参列した入居者から「自分の時もここで葬儀を行って欲しい」という申し出がコンタクトパーソンなどに数多く寄せられたのだ。

 

また、葬儀社の会館など、ホームの外で葬儀を行う場合、ホームのスタッフたちは仕事があるので、通常は支配人やマネージャーなど、限られたスタッフしか参列できない。しかし、ホーム内で葬儀を行うことにより、「静堂」にご遺体が安置されていれば、スタッフたちもちょっとした隙間の時間を利用して、焼香などといったお別れの時間が持てるようになった。

 

「私たちは、最後まで寄り添いたいと思っても、あるとき急に居なくなってしまう喪失感を強く感じていました。でもホーム内で葬儀を行うことで、ご遺体を前にじっくりと対面して、『自分はきちんと対応できたのかな、ご本人の思いに沿って対応できたのかな』と、振り返る時間ができました」
スタッフたちが遺族の話を聞いたり、逆にスタッフたちが遺族に思いを伝えたりといった、「死を受容する時間」が、死別においてのグリーフケアとして大切だと言われている。それが自然に行えるようになったと、岩佐茂氏は言う。

 

「一生懸命お世話してきたスタッフたちは、『本当はもっとやれることがあったんじゃないか。病院に連れて行った方が、苦しくなかったんじゃないか』と思い悩み、ご家族も別の角度から『これで本当に良かったのかな』と考え続けるんです。でも、ホーム内で葬儀を行うことで、お互いに話をする機会ができて、『これで良かったんだ』と納得できるのです。ご家族の中には、自分たちがお世話をしない罪悪感みたいなものに囚われている方や、『ここに任せて良かったのだろうか?』と悩んでいる方も少なくありません。」

 

「一番大切なのは、ご家族が、『最後をここで迎えられて良かった。入居したのは間違いじゃなかった』と、晴れ晴れとした気持ちになっていただけることです。ホーム内で葬儀を行うことで、私たちスタッフだけでなく、残されたご家族も、そこへ至るための時間が持てるようになりました」岩佐茂氏の表情が緩む。

 

ホーム内で葬儀をした遺族から新たな入居者を紹介されるケースも少なくないという。人生の最期まで本当にそこで暮らせる施設が求められている昨今、ホーム内で葬儀を行うことはホーム側のその覚悟の証明にもなる。口コミ集客につながるメリットもあるようだ。


ホーム内での葬儀のかたち

ホーム内で葬儀を行う場合、当然のことながら、葬儀社の協力が必要だ。家族から相談があれば同社では理念を共有できる葬儀社を紹介している。

 

「これらの葬儀社には、ご葬儀の時以外にも社員を対象とした看取りの勉強会や、エンゼルメイク講習会などを開催してもらったり、「お盆の時期に行う追悼イベントである『メモリアルホール』の設営を手伝ってもらうなど、協力関係を築いてきました」
もちろん他の葬儀社に依頼することも自由だという。

 

看取り期に入った入居者に付き添う家族がホームのゲストルームに泊まることもよくあるが、その場合もゲストルームの宿泊費は受け取っていないという。

 

「ご自分の家だったら宿泊代はかかりませんから。『心ゆくまで付き添ってあげてほしい』という意味で、宿泊費はいただきません。以前、部屋に簡易ベッドを入れて、ご主人と手をつないで寝ることを希望された方もいました」
これらも、あくまでも「『家』のような感覚で最後まで過ごして欲しい」というホーム側の考え方が実際の運用に反映されている事柄だ。

 

ホーム内で看取った場合のみ、ホーム内での葬儀に繋がるのだろうか。それとも、最期は病院で亡くなられた方の場合も、「ホームで葬儀をしたい」という家族の選択があってホームに戻ってこられるのだろうか。

 

「亡くなられた場所は関係なく、『最後はここに戻りたい』と言う方が多いです」竹村彩子氏は言う。「病院で亡くなられたとしても、一旦戻っていらっしゃるケースが多いです。病院から直接どこかへということはほとんどないですね」参列する人数が多くてホーム内での葬儀は難しく、外の斎場で葬儀を行うことが決まっている場合でも、ほとんどの方が一旦ホームに戻ってきて「静堂」に安置され、そこから外の斎場に移るという。
「『静堂』に安置されると、いつでもスタッフやご入居者たちがご焼香できるように、お別れの場を整えます。」

 

同社の2015年のデータだと、逝去者の約5割の家族がホーム内で葬儀を行っている。希望する家族は6割を超えるが、「静堂」のキャパシティとして16〜17人くらいが座れる程度のスペースしかない。そのため、親族や友人などの参列者が多い場合には残念ながら実現できない。

 

「16〜17人を超える参列者がいらっしゃる場合は、『近くに公益社さんという葬儀社さんの広い会館があるので、そちらの方が喪主さんもお気を使わなくていいのでは?』という話をしています。それでも昨年は『ぜひここで葬儀をやらせて欲しい。ここから出棺したい』という方がいて、『家族には私が説明する。立ち席でもいいから』そう言って、その方が全体を取り仕切って、外席の人、中席の人と分けて、「静堂」での葬儀を実現されたご家族もありました」そうまでしてここで葬儀をしたいという方がいるところに利用者側の強い信頼がうかがえる。

 

葬儀をホーム外の斎場等で行う場合、安置するホーム内で納棺まで済ませるのだろうか。
「いろいろですね。ここは『家』ですから。一旦部屋で安置して、その後、「静堂」に降りてきて…というところまでは皆さんだいたい同じですが、そこからはいろいろです。式を迎える前にここで納棺式を行う方もいますし、納棺式も外でされる方もいます。ご家族それぞれの思いもありますし、いろいろですね。でも、外で行う場合にはお棺には納めずそのまま葬祭会館などへ移送されることが多いでしょうか。ご家族としても、通夜の前に会館に集まって納棺式だけしておいてあとはお式に備える、そんな流れが合理的と考える方が多いのではないかと思います」

 

メモリアルホール

同ホームでは開設以来「メモリアルホール」という追悼イベントを年に1回、8月の13日〜16日までのお盆期間に毎年行っている。
「8月13日にホームの玄関先で迎え火を焚いてホームで亡くなられた方の御霊をお迎えし、16日に送り火を焚いてお送りしています」岩佐茂氏は説明する。「多目的ホールに、旅立たれた方のお写真と、当時担当だったコンタクトパーソンが書いた手紙を飾っています。年に1回、ここで亡くなった方を偲ばせていただくお盆期間のイベントを『メモリアルホール』と呼んでいます。」
「亡くなられてしまったら契約関係は終了します。でもそれでつながりが終わるのではなくて、ご家族にとってお父様なりお母様なりが過ごされた第二のご実家みたいな存在になれれば…と思っています」

期間中は、写真や手紙が飾られた多目的ホールの中央にテーブルを配置し、お菓子やお茶が用意されている。それほど多くの来場者があるわけではないが、現入居者も先に亡くなった友達を偲ばれたり、たまたま来館した家族が立ち寄って行くこともある。比較的静かで、慰霊の場にふさわしい雰囲気だ。

 

「お亡くなりになって新盆を迎えるご家族には、『メモリアルホール』のご案内を送っています。」竹村彩子氏は続ける。

 

迎え火も送り火も、「メモリアルホール」も、今では同社の全ホームで行っている。

 

「おがらという葦の乾いたものをくべて、火を絶やさないようにしています。『田舎では毎年やっていたから、良かった』と言って、涙されるご入居者の方もいます。お部屋にお位牌を持って来られている方もいらっしゃいます。私たちにとっては、『ご実家ではどんなお盆を過ごされていたのですか?』という質問ができたり、『どんな思い出がありますか?』『一緒にお迎えしましょうね』という話をする良いきっかけになっています」
竹村彩子氏は微笑む。

 

「『メモリアルホール』はこれから、より一層大切にしていきたいと思っています。理由の1つとしては、旅立たれたお身内をもつご家族に、いつまでも故人を思い出してもらいたいからです。そして2つ目の理由としては、私たちが掲げている『終の住処』という理念です。何をもってそれを体現しているのかと考えたときに、最もそれを体現していらっしゃるのは、私たちではなく、ここで亡くなったご入居者なのだと気付いたのです。ここに入居し、ここで最期を迎えたという事実こそが、『終の住処』という理念をまさに体現しているのです。私たちにとっては、ここでお亡くなりになったご入居者お一人お一人が感謝の対象です。だから毎年欠かさず心から感謝をする。それが私たちの、ご入居いただいた皆様への何よりのご恩返しなんです」岩佐茂氏の言葉には、本気で考え抜いたこその重みが感じられる。

 

「静堂」で行う葬儀は、たまたま来館した入居者の家族が目にすることもあり、「ご両親のときにはどのようにしましょうか?」という話が自然にできるようになったという。

 

介護領域だけでなく、看取りや供養的な事柄にも関わり方を模索する施設が増えているのが昨今の介護業界の流れだ。これまでは入居者を不安にさせないようにと死に関わることはできるだけ目立たないように触れないようにしていたが、最近は大きく流れが変化している。真正面から取り組みそれを隠さないことによって、逆に「容体が悪化しても施設を追い出されずに済む」という利用者側の安心感につながっていることも多い。
裏を返せば、施設への入居を検討する者やその家族にとっては、容態が悪化したり、認知症が進行したり、介護度が増したりといったことで施設を途中で追い出されるのではないかという不安がつきまとっているともいえる。そうなってから新たに施設を探さなければならない状況は、極力避けたいのが心情だ。

 

「ご入居の方からは、『メモリアルホール』を見て、『ああ、私のときもこうやって思い出してもらえるのね』『私のときもこうやってちょうだいね』と言われます。先日も、『全然知らない人に送られるより、知った人たちに送ってもらう方がいいに決まってるじゃない』と笑顔で言われました」竹村彩子氏は言う。

 

玄関先に灯る迎え火と送り火。もはや都市部においてはほとんど見られなくなった温かな慰霊の風景がある。

 

ホームで行われる慰霊・供養が持つ意味とは

都市化や近代化の中で「供養」の形骸化が年々進行していく側面がある一方、医療・介護の領域の一部では、内実を伴う新たな芽吹きが始まっている。

 

「葬儀や供養は誰かに見せるために行うのではなく、ご遺族を始め関わりのあった人たちに故人への思いを確認してもらうきっかけを提供するものだと思っています。その方へのきちんとしたお別れをさせていただけることを、私たちは亡くなられたご入居者やご家族に感謝したいと思っています」岩佐茂氏は言う。

 

生前に故人との深い関わりや人間関係があるからこそ、その思いを乗せる憑代としての「葬儀」や「送り火」といった供養儀礼に本質が伴う。逆に憑代となる形があるから、心の中にあるそれらの思いをスムーズに表出できる。

 毎年行われる盆の迎え火と送り火
毎年お盆がくるたびに行われる迎え火と送り火

「仕事としての関わりではありながらも亡くなった方を本気で偲べるのは、介護や看護の人間が多いのだと思います」
「以前は介護業界も、生きている方のお世話をして、『亡くなったら私たちの役目は終わりです』となっていました。契約上でも1ヶ月間の期限の中で荷物を片付け、遺品整理をすることで終わると設定されています。しかし、残されたご家族がどう満足や納得に辿り着くのかということを真剣に考えていくと、ご入居者が亡くなった後、ご家族がその死の受容をしていく…『それら全てがひと段落するまでが私たちの仕事なんだ』というところに行き着きました」

 

また供養や葬送は、そこに加わるスタッフにとっても実質的な意味を持つ。

 

それは、亡くなった方が大切に扱われきちんと送られることが、介護の世界に生きる者の仕事のやりがいにつながるというものだ。自分が支えてきた人が、誰にも還り見られないままいつのまにかいなくなり、誰からも忘れ去られてしまうというイメージは、「自分が心をこめてこれまで支えてきた時間は、なんだったのだろうか?」とどこかで虚しく感じてしまう感覚を呼び起こしかねない。自分たちの仕事に対するプライドが保てなくなる危険がある。それはその後に関わる葬儀社の者にとっても同じことだろう。目に見えない価値だからこそ、関わる者たちそれぞれがその価値をリアルに実感できるかどうかが互いに連鎖していく関係にある。

 

メモリアルホールの他に、供養的な意味を持つイベントはあるのだろうか。
「2010年に、開設10周年を祝う『感謝の集い』を開催しました。『10周年だからお祝いをしよう。何をしようか?』とスタッフたちと考えた末に、『感謝祭』に決まりました。『感謝の対象って何だろう?』と突き詰めていったら、『亡くなったその全ての方々では?』と思い至りました」

 

亡くなった入居者の家族を招待し、慰霊の場と喫茶ルームを作り、慰霊に訪れた方をもてなした。
「そこに華美なイベントごとは必要ないんじゃないか、と考えました。それまでにホームで亡くなった約100人分の慰霊の場を作って、いらっしゃった方をおもてなしして、私たち自身も10年の歴史を振り返ろうと、喫茶ルームにスライドショーを流しました」

 

慰霊の場を作るにあたっては、前述の葬儀社にも協力してもらった。
「『モニュメントみたいなのを作りたいんだけど』と言ったら、『あなたに会えて良かった』というキャッチフレーズを考えて作ってくれました。久しぶりに訪ねてくださったご家族に再びお会いできて良かったという気持ちと、これまでここにお住まいいただき亡くなっていった方たちが戻ってきてくださって良かったという気持ちがかかっているんです」岩佐茂氏は目を細める。

 

「お招きしたご遺族の中に音楽をされている方がいらっしゃって、『生演奏でも流しましょう』って言ってくださって。コンサートみたいになりました」

 

「『本物の』終の住処」となるために

同社は「『本物の』終の住処」をコンセプトに掲げ、今後はさらに医療体制を強化させていくという。将来の展望についてもうかがった。
「『終の住処』というフレーズは、今となってはどこの有料老人ホームでもうたっています。だけど、特定施設と認められている施設で、本当の意味での最後まで居られる施設は、実は1割に満たないのではないかと思います。介護保険制度で、特定施設には24時間看護体制加算がありますが、約半数の事業者しか加算を算定していません。」

 


「残った5割の中ですと、おそらく5分の1程度しか、実際に深夜まで看護師を配置する24時間看護体制を整えているところはないと思います。そのため看護体制で加算は取得していても、『深夜は施設内には看護師はおりません』というところもあります。果たして本当にそれで私たちが実践しているような看取りができるのかと、疑問に感じます」岩佐茂氏の言葉に力が篭る。

 


「やはり、吸引や点滴を管理するという問題になると、看護師がいないとできません。『必要なら医療機関に行ってください』という結末になってしまいます。安心して看取りの期間を過ごしていただくためには、24時間看護体制加算の要件を満たすだけではなく、本当の24時間看護体制を敷く、ということ重要なのではないかと思っています」

 

施設での看取りが増加しているということは、病院での看取りが減少しているということだろうか。
「確かに、病院ではなく私たちのところでの看取りを希望される方が増えてきました。要は、病院で死ねなくなってきたのだと思います。病院も6年、7年くらい前までは延命に力が入っていたので、ホーム内でも胃瘻の人を10人以上抱えるような時期がありました。だけど医療制度も変わって、ホームから病院に行かれたご入居者が胃瘻をつけて帰って来ることがいまではほとんどなくなりました」

 

最近では入居者や家族との面談の際に、「胃瘻は最後の手段です。選ぶかどうかはご家族次第ですが、本来の死というものとは違うかもしれません。これは延命ということにもつながります」ということを説明するドクターが増えてきているという。

 

「今は、医療もこういった発想に変わってきているので、今後は、私たちが終末期をきちんと診られる体制を固めていかなくてはなりません。そのために協力医療機関との連携を強めて、対応していくつもりです」

 

看護・医療体制の充実を図り、連携を強めていくことで、施設内で対応できることが増える。そうすると、ますます施設での看取りが増えるが、一方で入院期間や病院で看取られる件数割合は減っていく。社会全体が、「入院しないでなるべく自然な最後を迎えよう」という方向に変わってきていることを実感する。

 

入院の回数や期間が減れば、病院に支払う費用は減る。入居者が支払う費用として、トータル的には楽になるのだろうか。
「病院に入院している間もホームの管理費は納めていただくので、ダブルコストになってしまいます。また、それなりに快適な入院生活を送ろうとすれば差額ベッド代など掛かる費用はけっこうな額になります。だからホーム内でできることが増え、入院が減ることはトータルでの利用者のご負担はかなり減るはずです」と岩佐茂氏は語る。

 

最近増えている入居金ゼロをうたうホームの大半は、病院に入院したら入居し続けるための権利が失効することが多い。しかし「ヒルデモアたまプラーザ・ビレッジ1」では、たとえ病気になったり介護度が上がったりしても、権利は失われない。これは、最期まで安心して暮らし続けることができることにつながっている。しかし、これは同時に入院時のダブルコストの問題が発生する。
ホームでの医療充実度が上がれば病院利用が減ることにつながり、ダブルコスト状態の発生を抑えていく効果が期待できる。

 

「看取り率100%」を目指して

同社では、2015年の4月から「3つ星の介護」という3ヶ年の中期計画がスタートした。
この計画は、1番目にターミナルケア「さいごまで、ヒルデモア/ヒュッテで看取ります」、2番目に食の連携「さいごのひとさじまで、美味しい食事を食べられます」、3番目に認知症ケア「さいごまでその方らしい暮らしを支えます」という3つの重点施策を打ち出し、同社ホームの強みをさらに充実させていく取り組みだ。

 

「毎年メモリアルホールに来てくださっている方がいるんですが、昨年『おかげさまで今年、13回忌を無事に迎えました』と仰られました。亡くなられた旦那さんの入居期間は2年くらいでしたが、その後奥様が毎年ここに足を運んでいらっしゃったのです。私たちがやっていきたいことって、『ご遺族にも通い続けてもらえる場所でありたい』ということだと気付かされました」と岩佐茂氏は続ける。

 

「メモリアルホールは、これまでは本当にひっそりと続けてきたんですけど、もっときちんと伝えていかなければならないと思います。ご入居された方やご家族に、私たちの考えをきちんとお伝えして、後々ずっと通い続けていただけるようなホームにしていきたい。だから、どうしたらしっかりと私たちの考えや取り組みを伝えられるのか、『全社的に取り組んでいこう』というところに差し掛かっているんです」

 

介護や医療、看取りと葬儀、その後の供養や慰霊イベントは、それぞれ個別の取り組みではある。しかし、ホームとしてのケアの質が高まり、看取りまでサポートする介護や医療の体制がレベルアップすることで、自然と「葬儀をここで行いたい」というニーズも生まれてきたことは確かだ。また、ここで働くスタッフたちにとって、看取りの現場に立ち会うことはときには怖かったり辛かったりする経験ではあるが、その経験を自信ややりがいへと昇華させることで個々の成長にもつながり、好循環が生み出されている。

 

ヒルデモアの看取り〜葬儀〜慰霊という一連の取り組みには、「『本物の』終の住処」「ご入居者の気持ちを尊重する」「ご家族に寄り添う」という同社創業時からの理念やマインドが通底している。多くの介護事業者の中でも、会社の理念からきちんと落し込んで供養や慰霊的な取組みを具現化し組み込んでいるところは珍しい存在だ。そういったことが実現する背景事情として、ヒルデモアが有数の高級有料老人ホームであることが大きな要因となっていることは確かだ。

 

しかし、医療政策の変化や人々の終末期の考え方に関する変化を受け、今後も介護施設がこういった取り組みに踏み込んでいく流れは拡大していく。近隣の彼らとどのような信頼関係・パートナーシップを構築し、実際の連携関係を作っていくのか…、各地域に根差す葬儀社にとってこの先重要度の高まる挑戦テーマの一つだ。

更新日:2017年07月28日


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医療・看護体制の充実を図りつつ供養や慰霊にも積極的に取り組む

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